子育て・発達凸凹

【ボク】の物語(第6話)心の準備は出来ていない

【ボク】と全く同じ動きの発作をする女の子の動画を見つけて

「この子の病気は点頭てんかん(ウエスト症候群)だ」と確信した。

「予後最悪」の文字を見て、絶望を感じていた。

拭いても拭いても涙がにじむ。

スマホを持つ手は震えが止まらない。

 

それは、目も合わず抱っこも嫌い、まるで一人の世界で生きているかのような【ボク】と、弱くて泣き虫で今にも崩れてしまいそうな私。

そんな2人が親子になっていく為に与えられた試練だったのかも知れない。

 




 

メガネ医師vs乗り込む親子

次の日、朝1番で「メガネのすらっとした若い風の脳神経外科の先生」の元を再度尋ねた。

この子の病気は点頭てんかんだという確信と、その証拠の動画を持って。

 

何が「成長すれば脳波はマシになる」よ。

「赤ちゃんのうちは多少の乱れはあるからね」よ。

医者ならもっと突き詰めなさいよ!

もっと【ボク】をちゃんと見なさいよ!

パソコンの画面ばかり見てるんじゃないよ!

何から何まで腹が立つ。

 

わかってる。

経過を見るしかないことがあることも。

その時点では、それ以外に方法がないことも。

わかってるんだけど。

この気持ちをぶつける場所がなくて、メガメの医師を悪者にしたかったんだ。

 

 

前回の脳波検査から2,3日しか経っていないというのに再度目の前に現れた親子を見て、メガネ医師は「あれからどうですか」と聞いた。

 

「あれから無呼吸はなくなり、変わった動きをするようになりました。

前回受診した直後からです。

1日に何度も変な動きをするんです。

 

それで、自分で調べたんですけど、この動画が全く同じなんです。

たぶん息子は【点頭てんかん】(ウエスト症候群)という病気だと思うんです。」

 

メガネ医師に動画を見せる。

メガネ医師はその動画をちらっと見て、また視線をパソコンに戻した。

「…」

「もう一度、脳波を取りましょうか。

準備するので待合でお待ち下さい。」

 

内心「またか…他に何かないのかな…」と思いながら薄暗い待合の椅子に腰をかけていた。

【ボク】はベビーカーで横になっている。

「ごめんね。病院ばっかりだね。」と無表情の【ボク】に小さく声をかけた。

その時、段々【ボク】の顔がこわばる。

視線が遠くの一点を見つめて動かない。

「来る!」

動画の女の子と同じ動きが始まる。

 

「すみません!これです!この動きです!見て下さい!」

 

少し離れた場所にいる看護師に向かって叫んだ。

 

「先生を呼んできますね!」と走って行く。

 

メガネ医師が来た。

 

「この動きを1日に何回もするんです。

あの動画と同じですよね?点頭てんかんですよね?どうしたらいいんですか!?」

 

メガネ医師はじっと様子を見てから、

「〇〇くん~!」と初めて【ボク】の名前を呼んで肩を叩いている。

 

数秒~数分たって、発作と思われる動きが徐々に収まった。

 

メガネ医師から思わぬ言葉が出た。

【ボク】の発作を目の当たりにして確信したのかも知れない。

 

「お母さん。今日は車ですか?

このまま母子総合医療センターに行けますか?」

 

「はい、車です。大丈夫だと思います。」




 

 

母子総合医療センターへ

ここから母子総合医療センターまで車で45分。

運転は得意ではない。

でも行くしかない。

ミルク、オムツは多めに持ってきている。

大丈夫

夫は仕事。

お姉ちゃんの保育園のお迎えを義母に頼まないと。

 

ナビを見ながら必死に進む。

ハンドルを握る手は汗ばんでいる。

【ボク】はチャイルドシートで大人しくしている。

 

いよいよ診断の時かも知れない。

心の準備は…

できていないかも知れない。

一緒に診断を聞いてくれる人もいない。

しっかりしなくては。

受け止めるしかない。

 

点頭てんかんの治療法についても知識をつけてきた。

予後についても調べ尽くした。

 

怖い。

でも大丈夫

これからの人生ががらっと変わるかもしれない。

怖い…

でも大丈夫

きちんと母親をする。

この子の母親は私だけ。

頑張らないと。

大丈夫

 

ぐるぐる

ぐるぐる

 

そうしているうちに母子総合医療センターへ着いた。

 

木が生い茂る中にたたずむ巨大な建物。

その迫力に圧倒される。

同じく広大な駐車場。

こんなに広いのに大量の車で埋め尽くされている。

「何人が…何千人がこの病院に通ってるの…?」

その存在に関心すら持たなかった今までの自分を恥じた。

今の私と同じような思いでここに通っている親子がいたんだ…

 

【ボク】に「行こうか!」と自分に言い聞かせるような、明るめの声をかけた。

 

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